フェアになった代表選考方法の元、女子50kg級で世界切符をつかんだ須崎優衣

 レスリングの世界選手権(10月・ハンガリー)代表を決める最終決定戦、プレーオフは、新しい時代にふさわしい代表選考方法だった。本来、レスリングの日本代表は、12月の全日本選手権天皇杯と、翌年6月の明治杯全日本選抜選手権の結果によって選ばれる。この2大会の優勝者が異なる場合には、代表決定プレーオフによって最終決定とされてきた。ところが、女子に限っては事前告知がないままプレーオフによる代表決定が消滅し、全日本合宿での練習試合や内容から「総合的な判断」で代表を決定していた。

 どんな基準で選ばれるかが、事前に選手へ明らかにされないこの選出方法は問題がある、という指摘もないではなかったが、変更されないまま、およそ8年、続いていた。だが、五輪4連覇の伊調馨氏の訴えから始まった栄和人氏によるパワハラ問題により、選考方法のひとつもパワハラとして認定された。その一連の流れを受けてフェアな選考方法に見直された。今年は代表選考方法が大会前に選手に知らされ、当事者でありながら弱い立場におかれがちな選手らの権利が守られる形へと一歩、前進した。紙一重の代表争いが続く中で、期待されるのは、選手にとって公平で、基本的な人権が尊重された代表選考方法である。

 そのプレーオフは7日、男女10階級で実施されたが、そのうち五輪実施階級は4つ。その4階級のうち、リオデジャネイロ五輪女子48kg級金の登坂絵莉(東新住建)もいて、最も熾烈な争いになると予想される女子50kg級を制したのは須崎優衣(早稲田大)だった。試合終了残り15秒から入江ゆき(自衛隊)を逆転した。

「絶体絶命のときの練習を繰り返したから」と、歯切れのよい口調ながら、ときどき少し裏返る少女らしい声で振り返った。須崎が言う、勝つか負けるかギリギリの練習とは、試合の残り時間30秒の切羽詰まった状態を想定したものだ。

「残り30秒にタイマーをセットして、たとえば4-0で負けていると仮定してスタートします。それを繰り返すんです。点差は、そのときによって色々と変えますが、試合が終わるまで残り30秒というのは同じです」

 残り時間がわずかとなったとき、勝っていても負けていても慌てて冷静さを失う事態だけは避けたい。プレーオフの終盤、入江のバッティングによる反則で1点を得て3-4になり、リードされた状態で時計を見て「残り25秒」と確認した須崎は、繰り返した練習のおかげで焦って浮き足立つことなく正面を向いた。

「25秒だと分かっても、落ち着いていられました。残り30秒の練習を繰り返したおかげです」

 慌てることはなかったが、このままでは負けてしまう。逆転するために「なんだか分からないけどタックルをして」2点を獲得、逆転して試合は終わった。