コーネリアス・ヴァンダービルト(出典:アーサー・T・ヴァンダービルトII世著、上村麻子訳『アメリカン・ドリーマーの末裔たち』)

 ウォール街の草創期を代表する相場師にダニエル・ドルーとコーネリアス・ヴァンダービルトがいます。たびたび株の買占め競争では対立しながらも、ときには手を組むこともありました。そんなことが容易くできるのも、2人にとって投機とは道徳心など存在しないゲームだったからです。

 また、二人は同じ相場師でありながら、悪いうわさが絶えなかったのはドルーのほうでした。ドルーという人間は「投機のためなら、友人すら犠牲にする」という非道さを持ち合わせ、「ハンカチ・トリック」という姑息な手段で人々の裏をかく手法で儲けを出していきました。今回は鉄道株をめぐるドルーとヴァンダービルとの対決について、市場経済研究所の鍋島高明さんが解説します。 


  ハーレム鉄道株をめぐる、ヴァンダービルトとの対決

 南北戦争(1861‐1865年)の当時、ハーレム鉄道はニューヨークのハーレムの低地を通って4番街と26丁目が交差する辺りが終点だった。この路線をバッテリーまで延長すると、ハーレム鉄道株はうんと上がるはずであった。その可能性に賭けてドルーのライバルの「提督」ことヴァンダービルトはハーレム鉄道株を買い進み、NY市議会の巨頭トウィードまで動かして路線延長許可を取り付けた。

 この時、ドルーもハーレム鉄道株の買い大手に位置し、ヴァンダービルトと利害を同じくしていた。しかし、株価が大きく高騰した時点でドルーはドテン売り方に回った。突然の変身にはドルー一流の謀略が仕掛けられていた。ドルーはNY市議会を牛耳るトウィードを抱き込んで、路線延長許可を取り消させてしまったので株買い占め戦に決着を付けたのは、ウォール街の大物相場師レオナルド・ジェロームとジョン・トービンがヴァンダービルト側についたことだった。

 110ドルだった株価は285ドルまで暴騰、売り方が現株を渡そうとしても市場には全く浮動玉がない。
   

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