大坂なおみは3回戦で敗退となった(写真・ロイター/アフロ)

“最も孤独な競技”と呼ばれるテニスでは、選手の心の内の動きが、身体のそれに表れやすい。

 若さからか、あるいは本人も周囲も“完璧主義者”と評する生来の性格からか、大坂なおみはその傾向が強いアスリートでもある。

 多くの日本人選手が“聖地”と仰ぎ見るウィンブルドンだが、「いつかここで戦いたい」との未来像を描いた身近な全米オープンなどに比べれば、英国開催の芝の大会に特別な思い入れは無かったと大坂は言う。
 それでもウィンブルドンのセンターコートは、幾度もテレビの中で見てきた華やかな舞台。どこか遠いところと感じていた心理的な距離感は、いざ実際に立った時には、まるで絵やテレビの中に居るかのような、非現実的な浮遊感を彼女に与えたかもしれない。

「緊張した訳ではないけれど、舞い上がってしまった。勝ちたい、良いプレーがしたいとの思いが強すぎて、やるべきプレーに集中できなかった」

 3回戦後の大坂は、敗戦の理由の一端を明かす。その想いが、カウンターを得意としミスの少ない元世界1位のアンゲリク・ケルバーにも、大坂が意地のような真っ向勝負を挑んだ理由だったかもしれない。
 得意とするフォアハンドの逆クロスを立て続けに叩き込むも、そのたびに打ち返され、最後には自身のミスでポイントを失う場面があった。サウスポーの相手とのバック対フォアのラリーで打ち負けると、以降もバックの強打にこだわりミスを重ねたシーンもある。2-6,4-6のスコア、1時間3分の敗戦に、大坂は「テレビで見ていたセンターコートを、もっと楽しみたかった」と試合後にまつ毛を伏せた。

 練習やトレーニングも含め、テニスを楽しみ精神的に常にポジティブで居ることは、今季の大坂が掲げた最大のテーマである。振れ幅の大きな戦績の理由が内面にあるということは、現コーチのサーシャ・バインが昨年末にコーチに就任した当初から、彼女に指摘し続けてきた命題でもあった。

「なおみは、自分にとても厳しかった。例えば練習で僕が何かアドバイスを与えると、彼女は直ぐにトライします。そして上手くいかないと、自分を激しく責めるんです。『そんなに直ぐに出来るはずはない。君はマシンじゃないんだから』と、彼女には何度も言い聞かせました」

 大坂と共に歩み始めたばかりの日々を、バインコーチは穏やかな口調で述懐した。
 内面がプレーに直結するなら、内面を変えることから始めればいい……それが新コーチの狙いである。

 大坂が「自分がポジティブな性格になれた最大の理由」として挙げるバインコーチの重要性は、確かにここまでの戦績にあらわれている。1月の全豪オープンでは、地元選手を破り自身初のグランドスラム4回戦に到達した。3月には、グランドスラムに次ぐ格付けのインディアンウェルズ大会で、一気に頂点まで駆け上がったのも記憶に新しいところだろう。

 ただその一方で今季の大坂には、ここまで、セットを相手に先に取られながら逆転勝ちした試合が一つしかない。それに比して敗戦では、フルセットの惜敗は一つもなかった。良い精神状態でコートに入れば、相手が誰であろうと圧倒するポテンシャルが、彼女にはある。対してひとたび劣勢に陥ると、そこから挽回する手段を見つけられぬまま、敗れる試合も多く見られるのが実状だ。3週間前の全仏オープン3回戦の対マディソン・キーズ戦、そして今回のケルバー戦が、その最たる例だと言えるだろう。
 
 全仏オープンでのキーズ戦に続き、大坂は今大会で学んだ課題を「どんな状況でも勝つ道を見つけること。今日のように良いプレーができない時にも、何か解決策を見出すこと」だと明言した。そしてそれこそが「トップ選手と、そうでない選手の大きな違い」だとも言う。

 “完璧主義”な一面と折り合いをつけ、泥臭かろうが不格好だろうがしゃにむに勝利を追い求め、テニスの孤独さにも耐えうるメンタリティを備えた時、大坂なおみは真のトップ選手への階段をまた一つ登ることになる。
 
 (文責・内田暁/スポーツライター)