全英初のベスト8に進出した錦織が苦手な芝を克服した理由とは?(写真・アフロ)

4-6、7-6(5)、7-6(10)、6-1のスコア以上に、苦しい戦いだったろう。ウィンブルドンの4回戦で錦織圭(28、日清食品)は、アーネスト・グルビス(29、ラトビア)を3時間半に迫る熱戦の末に退ける。それは2008年の初出場以来、10度目の挑戦にして初めてこじ開けた、同大会ベスト8への扉でもあった。

芝のコートに苦手意識を抱いていることを、ある頃から錦織は、隠そうともしなかった。
苦にする理由は、いくつかある。一つには、サーブの優位性が高いこと。リターンを主軸に試合を構築する彼にとり、それは大きな不利点だ。
 
また球足の速い芝では、ポイントが早く決まりラリーが続きにくい。かつてオーストラリア紙に「一枚の紙が繊細な工芸品へと変貌する折り紙のよう」と修辞された錦織の精緻なポイント構築力だが、芝の上では折り紙を折り上げるのも困難になる。一つのポイントやミスで流れが大きく変わり、そのまま試合を決しかねない芝のテニスは、誤解を恐れずに言うのなら、彼にとってどこかつまらないものなのだろう。

 その錦織が今大会で、ついにこれまで跳ね返され続けてきた「壁」を越えた。
キーワードは「我慢」と「集中」、そして「サーブ」。そしてそれらを生んだ源泉には、約半年間の戦線離脱を彼に強いた、右手首のケアがある。

 ケガから復帰後しばらくの錦織は、脳に焼き付いたイメージと、現実的な肉体の動きの乖離に歯がゆさを覚えてきた。

「思うようにプレーできなかったり、本当はよくないけれど『復帰前だったらこういうプレーができていたのに』とネガティブな考えになることも最近は多い」と彼は明かす。そのような心の揺れはしかし、自分の内面を客観的に見つめる術を錦織に与えもした。「自分の中での戦い」を自覚するからこそ、「なるべく冷静にプレーする」ことを強く意識するようにもなる。コート内のみならず日常的にも、精神面のアップダウンを少なくすることを肝に銘じた。

「特にグランドスラムの2週間は長いので、そんなにアップダウンしているとメンタル的にも集中できなくなる。落ち着いてプレーすることは、特に最近課題にしています」

 そのような心の有りようが、4回戦のグルビス戦を勝ちきった最大の要因でもあるだろう。第1セットは、スピードもさることながら固有の回転を見せるグルビスのサーブに攻略の糸口すらつかめずに、リターンゲームで僅か2ポイントしか取れずに失った。

 それでも錦織は「我慢するしかない」と自分に言い聞かせ、反撃の機をじっと待つ。第2セットをタイブレークの末に奪ったことで反転した試合の流れは、錦織の我慢が引き寄せたものだ。