屈指の好カードで超満員となった後楽園での日本Sバンタム級戦で和気の左ストレートが炸裂して10回TKO勝利(写真・山口裕朗)

プロボクシングの日本スーパーバンタム級タイトルマッチが27日、後楽園で行われ、挑戦者の和気慎吾(31、FLARE山上)が、王者の久我勇作(27、ワタナベ)を10回36秒TKOで下して新王者となった。勝者が世界挑戦チャンスを得る可能性もあるという世界ランカー同志の国内最強決定戦は、異例のフルハウス。岡山出身の和気は「被災地に勇気を届けたい」とタイトル戦に臨んでいた。大人になった和気の貫禄勝利だった。

チケットは完売した。主催者発表の観客数は2000人。東西にある2階のバルコニーの立ち見席までが二重に人が重なっていた。昨年2月に石本康隆(帝拳)から2回TKOで王座を奪い、この3月のV2戦では小坂遼(真正)を1回に沈め勢いに乗る久我に、元OPBF東洋太平洋王者で、世界挑戦経験もあり“リーゼントボクサー”としてネームバリューもある和気が挑む、国内屈指の好カードに両陣営の応援団だけでなく、関東近辺のありったけのボクシングファンが集合したのだ。ゴング前から、両選手の名を叫ぶコールが、これほどまでに交錯する後楽園の熱気は、いつ以来だろう。

  和気は右周りにステップを刻む。足を使った。
久我は、前に出て必殺の右をふりまわすが和気の素速いステップバックと上体のスウェーで、すいすいとかわされ、その打ち終わりに左ストレートを狙い打ちされた。
「パンチが見えるという確信があった」と、試合後、和気は語ったが、久我のパンチを見切っていたのである。2回、右を外したと同時にその和気の左ストレートがカウンターになって炸裂。久我はダウンした。

「あのダウンがすべて。前半にごりごりいく予定はなく、ポイントを取って後半に相手を前に出させる作戦だった。だが、ダウンをもらって、焦って、こっちが行かざるをえなくなった。思った以上に左が外せなかった。相手はやりやすかったと思う」

久我は3回に強引にボディから攻め、終了ゴング間際に右を当てたが、和気の手のひらの上で転がされているようだった。
 徐々に和気の右のリードブローまで的確にヒットするようになり、4回には、また左のストレートがヒット。久我は、膝が落ちグロッキー寸前になった。

「思い描いた通りの動きができた。ビデオで何回も見てきているイメージした通り。ただ前半は、どんどん出てくると思ったけれど、そうでもなかったのが、想定外。こっちは逆にやりやすくなったけれど」

 和気が一枚も二枚も上手だった。もう久我の陥落は時間の問題に思えたが、5回に思わぬアクシデント。両者が頭をぶつけあい、和気は右目の眉間に近いあたりをザックリと切った。 醜い“血の川”が顔面にできるほどの衝撃。軽い脳震盪を起こしたのだろう。ドクターの傷のチェック後に試合再開を告げられたとき、和気はクビを何度もふり目がうつろだった。

「(頭をぶつけた)衝撃が大きかった。でも、自分にとって山だった。この壁を乗り越えなきゃ勝てない。そこを意識して集中を切らさずにやった」

 軽いパンチが当たっただけで傷口が開き、血が流れて目に入る。その和気のペースダウンを見逃さずに7回は久我がラウンドを制した。久我は「打ってこい」とグローブで挑発。ノーガードで強引に前に出たが、和気は冷静で、2週間、フィリピンのセブ島でキャンプを張り腕自慢のフィリピンボクサーとの真剣スパーリングで鍛えた、その足は最後まで止まらなかった。
 最終回となる10回。
「本能のまま」。開始直後から和気が至近距離からワンツーを繰り出して、再び威力のある左が、久我の顔面をとらえると、ほぼ同時に赤コーナーから赤いタオルが舞った。
「判定でもKOでもいい。勝つことにこだわったけれど、どうせ勝つならKOが美しい。(自分の)負傷判定で終わるよりも、こういう形でKOできたのは次に世界へつながる勝ち方だったと自覚している」

 新王者となった和気は応急処置の大きな絆創膏を眉間に張って控え室に帰ってきた。