日銀黒田総裁

  7月31日の金融政策決定会合で日銀は、それまで事実上0.1%近傍が上限とされていた長期金利 を0.2%まで引き上げるとともに、政策金利を「当分の間(霞が関文化の強い黒田総裁は、“とうぶんのかん”と音読みで読んでいました)」現在の水準で維持するというフォワー ドガイダンスを導入しました。フォワードガイダンスとは政策の指針を約束すること。具体的に は以下のようなものでした。

 「日本銀行は、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」

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 このフォワードガイダンスから読み取れるのは、2020年春頃まで現在のYCC(イールドカーブコントール)が維持される可能性が高いということです。ここでいう現在のYCCとは、翌日物金利が▲0.1%で据え置かれ、長期金利が上下に0.2%の幅を持ちつつ「0%程度」で維持されるというものです。声明文に「2019年10月の消費増税引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ」と明記した以上、それまでに政策変更が施される可能性は極めて低いでしょう。またその影響を見極めるには、最低でも6カ月程度の時間が必要と考えられることを踏まえると、やはり2020年春頃まで現在のYCCが維持されると考えるのが自然です。

出口戦略着手は、2020年か? それとももっと先?

今後の金融政策

 ここで、現在のフォワードガイダンスの「外」にある2020年春頃においてYCCの調整があるか検討します。ひとまず経済前提は、海外経済が順調に推移し、国内経済も消費増税の影響が薄く、増税前のトレンドを維持するという楽観的状況を仮定します。日銀の試算では消費増税にかかるネット負担額が2.2兆円と見積もられ、2014年4月の8.0兆円を大幅に下回るとされているので、影響が軽微に終わる可能性が考えられなくもありません。あくまで仮定の話ですが、このような理想的経済環境になっていれば、出口戦略の着手が俎上に載る可能性もあるでしょう。

 しかしながら、2020年春頃は人々が五輪後の景気減速を強く意識している可能性があり、タイミングが良くありません。五輪景気に対する人々の期待が強い以上、その反動で不安心理が膨らむ可能性があります。こうした状況下、日銀が金融政策を引き締め方向に切ると、景気の下振れリスクを高めてしまいそうです。筆者は、日銀がそれを懸念して出口戦略の着手を見送る可能性が高いと考えています。

 次に、さらに時間軸を延ばして2021年頃を想像してみます。この頃の話題といえば、やはり米国の景気後退でしょう。現時点でも「低下余地に乏しい失業率」、「逆イールド寸前の長短金利差」などいくつかの兆候が認識されていますが、2021年頃には景気の伸びしろが一段と縮小している可能性が高いです。米景気の下振れリスクが高まっていれば、連邦準備制度(FED)ハト派メンバーが緩和方向への政策転換を主張している可能性すらあり、こうした状況で日銀が引き締め方向にかじを切ることは無謀でしょう。現時点で2021年の予測は不確定要素が多く、こうした見通しに相当な幅があることは十分に認識していますが、今回のフォワードガイダンス導入によって“出口なしシナリオ”が現実味を帯びてきたと言えるでしょう。

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
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