イニエスタが日本初ゴール(写真は資料:西村尚己/アフロスポーツ)

 その場に居合わせた誰もが魂を揺さぶられた。ラ・リーガ1部の名門FCバルセロナとスペイン代表で一時代を築き上げ、5月下旬にヴィッセル神戸へ加入したスーパースター、MFアンドレス・イニエスタ(34)の来日初ゴールに、前売り段階でチケットが完売したノエビアスタジアム神戸が魅せられた。

 最初は何が起こったのか、スローで見なければ理解できなかったかもしれない。ホームにジュビロ磐田を迎えた11日の明治安田生命J1リーグ第21節。両チームともに無得点で迎えた前半15分に、四半世紀を迎えたJリーグの歴史でもまず見たことのない、芸術的な先制ゴールが生まれた。

 自陣の左サイドでボールをキープするイニエスタが、厳しいプレッシャーをかいくぐって中央のMF藤田直之(31)へパスを送る。19歳の高卒ルーキー、郷家友太(青森山田)を介してボールをもらった元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキ(33)が、猛然と中央へ切れ込んでくる。

 この間、イニエスタはピッチを斜め右へ横切る形でポジションを移し、ドリブルを始めたポドルスキとシンクロするように相手ゴール前へ向かって加速していた。そして、走り込んだ先へ向かって、利き足の左足を思い切り振り抜いたポドルスキからグラウンダーの高速パスが送られてくる。

 ちょうどペナルティーアークの右側から、ボックスのなかへ入ったあたり。ポドルスキのパスを、イニエスタは相手ゴールに背を向ける体勢で待ち構えた。背後についたジュビロのキャプテン、DF大井健太郎の脳裏には、イニエスタが選ぶかもしれない2つのプレーが思い描かれていた。

「自分の右にウェリントン選手がいて、イニエスタ選手の体の向き的にもダイレクトでパスが回るかなと思って。中をちょっと警戒したところで、ターンでやられてしまいました」

 自身の右斜め後ろにブラジル人の点取り屋ウェリントン(30)が、さらにファーサイドにはFW古橋亨梧(23)がいたことを大井は把握していた。一方で背後にいた味方は右サイドバックの桜内渚(29)だけ。ワンタッチでパスをさばかれたら、瞬く間に数的不利な状況を作られてしまう。

 J1で274試合に出場している34歳のベテラン、大井が守備の的を絞れていないと瞬時に見抜いたのか。ポドルスキの高速パスを右足に軽く当てたイニエスタは、そのまま時計回りに体をターン。気がついたときには、吸いつくようにコースを変えたボールはイニエスタの前方へ転がっていた。

「足が届くかなと思いましたけど、ボールが深かった。僕が言うのも何ですけど、本当に上手かった」

 ボールが深いとは、大井が足を伸ばしても届かない場所に意図してボールが置かれたことを意味する。大井のスライディングを難なくかわしてゴール前に抜け出したイニエスタの目の前に、ジュビロの守護神を担って4年目になる、ポーランド出身のクシシュトフ・カミンスキー(27)が立ちはだかった。

「正直、バランスを崩すと思ったんですけど。そうなることなく、すぐに自分のプレーに移っていったので。やっぱりすごいなと」