岩佐の宝刀左ストレートを挑戦者にうまく封印された(写真・山口裕朗)

プロボクシングのIBF世界Sバンタム級タイトルマッチが16日、後楽園ホールで行われ王者の岩佐亮佑(28、セレス)が、同級1位のTJ・ドヘニー(31、アイルランド)に0-3の判定で敗れて2度目の防衛に失敗した。武器の左を封じ込まれ、空転する展開。セレス小林会長が「倒さないと勝てない!」と終盤にハッパをかけて11ラウンドには逆転シーンを演出しかけたが仕留め切れなかった。試合後、2階級制覇を狙う、4団体すべてで世界ランク入りしている亀田和毅(27、協栄)がリングに乱入。プロレスまがいの対戦要求をして新王者を激怒させ突き飛ばされる場面もあった。ボクシングの伝統と格式を汚す暴挙に、高度なスキルの駆け引きがあった、せっかくの世界戦の盛り上がりが台無しになった。

 

 血気盛んなアイルランドの2、30人ほどの応援団がサッカーの応援歌「WE ARE THE CHAMP」に重ねて雄叫びを上げる。対抗するように「岩佐コール」。長渕の入場曲が聞こえないほどだった。
 主催者発表の観客数は1505人。後楽園ホールが、これほど白熱した試合はいつ以来だろう。
 だが、そのリングで、王者、岩佐の宝刀・左ストレートが消えた……。筆者が「左拳を痛めて試合に臨んだのでは?」と疑うほど、左ストレートが打てなかったのである。苦手なサウスポー同士。そして19戦無敗の最強挑戦者のTJが選んだアウトボクシングという作戦にまんまとはめられ長所を消された。

「(右の)ジャブが当たらないので、距離感をとれず、左につなげることができなかった」
 岩佐はスタートから面食らった。ファイターの挑戦者が足を使い、カウンター戦法に来たのである。
「思ったよりも出てこなかった。予想外のことをされて、ジャブの駆け引きにひきこまれた。対応できなかった。こっちの苦手のボクシングをしてきた。うまかった。ガードを下げて翻弄された」
 L字ガードからスピードに乗ったドヘニーの右のリードブローを何発もまともにもらう。
「ボクシングはチェスゲーム。インテリジェンスな戦略が必要だった。岩佐は罠を仕掛けてカウンターを狙ってくるタイプ。だから、そこにはまらないようにアウトボクシングに徹した。俺はプロで6年。アマ経験もある。これくらいの対応はできるんだ」
 試合後、アイルランド人は、待機戦略の狙いをこう明かした。
 
 中盤までは、ほぼ挑戦者ペース。セレス小林会長いわく、「右のジャブが当たらないので、当てようとするとステップがそこで終わり、左につながるステップにならないんだ」。悪循環だった。
 
 もう左は捨てることを考えた小林会長が「ボディを打て!右の返しを打て!」とアドバイスを送って、その効果はあったが、決定的となる突破口を開くまでには至らない。
 終盤にさしかかり、ラウンドの合間に小林会長の声がどんどん大きくなる。
「行け!行かないとポイントでは負けているぞ」
 10ラウンドを前に、その声は最高潮に。「勝負してこい!倒さないと、もう勝てないぞ」。
 王者陣営は切羽詰まった。だが、逆転KOを狙いだすと、一発一発のパンチが大きくなり、ますます、うまく外され、31歳の無敗挑戦者のクリンチワークに絡みとられた。

 11ラウンドに右フック、右ストレートが続けてヒットしてドヘニーがふらついた。最後の大逆転のチャンスだった。しかし、体を預けるようにしてもたれかかってきた挑戦者ともつれて一緒に倒れた。

「パンチが効いているのはわかっていた。でもうまくごまかされた。不完全燃焼だった」

 アイルランド人もスタミナを失いギリギリの戦いをしていた。
「苦しかった。そのときアイルランドから駆けつけてくれたフィアンセと母親の姿が目に入った。今、頑張らないとダメだと」
 試合終了のゴングが打ち鳴らされると、挑戦者は、セコンド陣に肩車をされて喜びを表現したが、岩佐は手を上げることもせずニコリとも笑わなかった。
 この両者のコントラストがすべてだった。
「117-112」「116-112」「115ー113」の3-0判定負け。新王者となったTJは「信じられなかった。敵地だし接戦だったと思っていたので、この判定には驚いた」という。