黒田日銀総裁(写真:ロイター/アフロ)

 2016年9月から日本銀行は短期金利を▲0.1%、10年金利を0%程度に誘導するYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)を実施しています。この7月には10年金利を引き上げるとの憶測もありましたが、日銀は予想外に以下のような政策の指針、いわゆるフォワードガイダンスを発表し、利上げ観測を封じ込めました。

 「日本銀行は、2019 年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」

 このフォワードガイダンスの解釈に法律の条文のような厳密性を求めるならばともかく、2019年10月という具体的時期の記載がある以上、それまでに引き締め方向への修正(≒利上げ)はないと考えるのが自然でしょう。実際、筆者もそう解釈しています。

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日銀が増税前に政策修正に踏み切る可能性はありうる? その選択肢とは?

 しかしながら、8月23日付日本経済新聞朝刊は「日銀、増税前に緩和修正も」と題した記事で「この文言からは19年10月までいまの低金利を続ける約束とは読めない」と指摘しました。また日銀内部の声として「景気が想定より堅調に推移すれば消費増税前に緩和修正に動くこともあり得る」との記載もありました。

 仮に当該記事のように日銀が増税前に政策修正に踏み切るならば、どういった選択肢があるのか考えてみます。選択肢としては、現在0%程度にコントロールしている10年金利の操作を止め、5年金利に変更するという案があります。その利点は導入段階において(1)明示的な利上げを回避しつつ、(2)超長期ゾーン金利を過度な抑圧から解放することで(生保や年金の)運用難が解消でき、かつ自らが(3)過去に示した試算結果と整合的でそれなりの理論武装ができる、という3点です。日銀は2016年9月の総括的検証で「長期~超長期ゾーンの金利が低下した場合よりも、短期~中期ゾーンの金利が低下した場合の方が、金融緩和効果が相対的に大きい」との定量分析を示し、その理由として貸出や社債といった資金調達のデュレーション(満期までの残存期間)が、短期~中期ゾーンに集中していることを挙げていました。つまり5年以下の金利を刺激した方が、企業の積極的な資金調達が促される(≒銀行貸出が伸びる)という分析です。

 「金融引き締めではなく政策調整」といった論法で金融政策の正常化を進めるならば、5年金利コントロールへの移行は有力な案でしょう。もちろん、現時点において増税前の緩和修正はサブシナリオに過ぎませんが、政策修正の選択肢として頭に入れておきたいところです。

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
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