WBCの世界挑戦権をゲットした井上拓真(左)の左フックが有効だった(写真・山口裕朗)

ボクシングのWBC世界バンタム級王座挑戦者決定戦が11日、後楽園ホールで行われ、元OPBF東洋太平洋スーパーフライ級王者で同級10位の井上拓真(22、大橋)がOPBF東洋太平洋バンタム級王者で、同級3位のマーク・ジョン・ヤップ(29、六島)を3-0(114―113、116―111、117―110)の判定で下して見事に世界挑戦権を獲得した。ショートカウンター作戦を徹底して5回にダウンを奪うなど気迫に満ち溢れた完勝。WBCの同王座は、現在空位だが、来月行われる王座決定戦の勝者が一度防衛戦を行った後に、その勝者へ挑戦する方向になった。兄のWBA同級王者の井上尚弥(25、大橋)は、WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)で、3団体の王座統一を目指すため、井上兄弟が、バンタム級の4団体のベルトを独占するというとてつもなく大きな夢が近づいてきた。

 井上拓真は不敵に笑っていた。
 最終ラウンド。8ラウンドが終わった時点の公開採点ではジャッジ2人が5ポイント差。もう拓真は、最後まで立ってさえいれば勝利が手に入り危険を冒す必要はなかった。だが、一発逆転KOを狙うヤップが前へ前へと出てくると拓真は堂々受けて立った。いや、それ以上。ここまでは、左フックを軸にしたショートカウンター戦略を徹底してきたが、無謀にも近い殴り合いを笑いながらやったのだ。
「ポイントで勝っていても気持ちとして最後までKOを狙った。倒そうと思った」
 これが、実父の真吾トレーナーが「強気なのは尚弥より拓真」と褒める弟の魅力なのだろう。

 最初から最後まで気迫に満ち溢れていた。
「ボクシング専門誌に“拓真はイージーだ”というヤップの発言が載っていたんですよ。何だ、この野郎と!」
 どうもヤップはいらない発言をしてしまったようである。
 40戦以上のキャリアを誇る逆輸入ボクサーを拓真は完璧に封じ込め、そして、最終ラウンドに世界王者となるべき人間の資格を証明した。WBC指名挑戦者決定戦にふさわしいレベルの高いボクシングだったと思う。

「ほっとした。僕は不利と言われていたけれど勝てて良かった」
 それが本音だろう。

 リーチ、距離の勝負ではヤップが有利。
 だから拓真は“リアクションボクシング”に徹した。

「出てくると思った。それを迎え討とうと。スピードは自分の方がある。ショートのパンチで相手に付き合わないでカウンターを合わせる練習をしていた」

 ヤップの攻撃の中心となるワンツーの右に左フックを合わせる。要所で距離を詰めて誘いをかけてのカウンター戦略。それもすべてがコンパクトでぶれないショートパンチなのだ。

 スピードでは拓真が圧倒していた。「思ったよりも出てこなくて楽だった。4回まではすべてポイントを取っていたと思っていた」が、4回終了時点の公開採点で、いざ蓋を開けてみると、2人が38-38のドロー。「びっくりした」という拓真のスイッチが入った。5回には左のオーバーフックがタイミングよく炸裂してダウンを奪う。リーチ差を克服するため、飛び込むようにして左フックを放った。

 しかし、7回には逆襲を食らい、無防備の状態で右フックを浴びた。「効かなかった」と、ダメージは感じなかったが、青コーナーのセコンドからは「いけ! 勝負! 倒しに行け」と声が上がった。
 9回にも、右ストレートと左フックを被弾した。ただ、ヤップの持ち味のはずだったチャンスでの怒涛の攻撃が、この日はなかった。