人気漫画「ちびまる子ちゃん」を生み出した漫画家のさくらももこさんが先月15日、乳がんのため53歳という若さで亡くなりました。長年にわたってアニメ版の放送が続いているので、主人公まるちゃんをはじめとする個性豊かなキャラクターやユニークなテーマソングは、幅広い年代にお馴染みです。

 文化論に関する多数の著書で知られ、子供の時からマンガ好きという一面も持つ名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、さくらさんの絵について「源氏物語絵巻の影響が脈づいている」と指摘します。東洋と西洋の絵画に対する考え方の違い、日本のマンガ文化の歴史を紹介しながら、さくらさんの持っていた非凡な才能について若山氏が論じます。

マンガと建築の「画法=図法」

さくらももこさんが寄贈した「ちびまる子ちゃんのマンホールの蓋」(C)さくらプロダクション

 個性あふれる子供たちが登場するマンガ『ちびまる子ちゃん』の、個性あふれる作者さくらももこさんが逝去された。

 さくらの絵は独特である。早くいえばデタラメだ。しかしだからこその天分が感じられる。
 
 僕は子供のころからマンガ好きでしかも建築家だから、画法=図法というものに興味がある。建築の仕事は三次元(空間)を二次元(図面)に表現することから始まり、それはマンガにもつうじるのだ。
 
 街や家など、建築を絵として描く場合、普通は遠近法というものを考える。近くのものは大きく描き、遠くのものは小さく描き、奥行きをもつ平行線は平行に描くのではなく、たとえば食卓を斜め上から見れば遠くがすぼまって台形になる。これには透視図法というしっかりしたルール(奥行きをもつ平行線は一点に収束するなど)があるのだ。

 しかしさくらは、このルールをほとんど無視している。場合によっては、登場人物や壁面は横から見たように(立面図のように)描きながら、食卓をほとんど正方形につまり上から見たように(平面図のように)描く。あるいは学校の机などを斜め平行に描く。これは画法=図法としてはデタラメである。しかしイラストとしてあるいは美術として見ると実によくできている。人間はシンプルな線描だが、食卓の料理やインテリアはしっかりと緻密に具体的に描き込んで、色彩も美しい。一コマ一コマが作品といってもいい。

 つまりその画法からだけでも、さくらの常識に従わない才能が感じられるのだ。