9月2日に日本でサービスを開始するNetflixは、世界50か国でサービスを展開している強みを活かして世界中のコンテンツが日本で提供される一方、日本の優れた映像コンテンツを世界中に配信するプラットフォームになることが期待されています。そこで今回は、実際にコンテンツ製作の最前線で活躍する企業に、コンテンツ製作者としてNetflixのサービス開始が業界にどのようなインパクトを与えると感じているのかについて伺いました。

Netflixが日本のアニメーションを世界中に届けるプラットフォームになる

お話を伺ったのは、9月よりNetflixにてアニメーション作品『シドニアの騎士』を配信する、ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役CEOでエグゼクティブプロデューサーである塩田周三氏。塩田氏はまず、日本のアニメーションの強みについて「日本では年間1200時間分もの新作アニメーションが製作されており、幅広いジャンルでこれだけの量の新作を製作する国は他にはない。海外ではアニメは“子どもが観るもの”という認識が強いが、日本では大人が深夜に観るようなアニメがたくさんあり、コンテンツの選択肢も幅広い」と語り、その背景にあるものとして日本が持つ“文化的な土壌”を挙げています。

「日本には、支配的な宗教、政治的な束縛なく、表現に対する社会の許容度が高いので、クリエイターが自由な作品作りができる」と塩田氏。創作を制限するような文化的なバックグラウンドが日本には少なく、クリエイターが表現したい世界感を優れたアニメーション技術やCG制作技術によって形にしてきたのです。しかしながら、これを世界各国のテレビ放送で放映しようとすると話は別問題になります。放送倫理や過激な表現の自主規制などテレビ放送には様々な制約があり、加えて宗教観や道徳観など文化的なバックグラウンドの違いが国ごとに存在していることから作品に対して批判的な目が向けられることもあるため、作品によっては世界各国の放送局で放送できないという事態が発生してきたのです。

こうした状況の中、視聴者が自分で観たい番組を選んで視聴できるNetflixを日本のアニメーション作品の配信手段として活用できるようになることは、業界に大きな影響を与えると塩田氏は語ります。様々な制約があったテレビ放送と違い、クリエイターが自分の世界感にこだわり抜いたアニメーションを、世界中の人々に簡単に届けることができるようになるのです。「これまでは、日本のアニメーション作品に魅せられて“何としても観たい!”と世界中の人々が知恵を駆使してコンテンツを手に入れてきた。それがNetflixを通じてコンテンツ製作者が観たい人々にダイレクトに作品を届けられるようになることは、大きなインパクトになるだろう」(塩田氏)。

Netflixの登場は、疲弊したアニメーション製作の現場を変革させる

それでは、アニメーションを製作する業界は、Netflixの登場により世界に挑戦するための扉が開かれることで、どのような課題を解決していく必要があるのでしょうか。塩田氏は、変わってはならない点と変わらなければならない点をそれぞれ挙げました。

変わってはならない点、それは日本のアニメーションの作品作りに対する姿勢そのものです。世界に向けて送り出す作品を作ろうとすると、どうしても肩に力が入り「どういう作品が受け入れられるか」という視聴者の眼を意識するようになります。しかし塩田氏は、Netflixを通じて世界にコンテンツを配信することになっても、「世界を意識することなく、自信を持って自分が信じる作品を作り上げることが重要だ」と語ります。確かに、こだわった作品はニッチ化し、ファンは少数になるかもしれません。しかし、世界各国に生まれた少数のファンが集まればそのパワーは大きなものになり、これまで日本で作ってきた市場を軽々と超えていくことも考えられるのです。

では一方、変わらなければならない点はどこでしょうか。塩田氏は、Netflixを通じて世界6200万人以上の視聴者に作品を届けることができるというスケールの大きな挑戦を通じて、アニメーション製作の現場がこれまで抱えてきた“金属疲労”を見直さなければならないと指摘しています。「アニメーション製作の現場は、過密スケジュール、限られた人材、予算構造、限られたマーケット規模、そして製作者の報酬など様々な点で問題を抱えており、製作現場は疲弊しきっている状態だ。Netflixが業界にもたらすインパクトは、こうした問題を解消するきっかけになるのではないか」と塩田氏。“自分たちのものづくりが世界に繋がる”という意識を持ち、世界各国へのデリバリーと多言語対応に配慮した制作スケジュールの管理や予算構造、制作環境の見直しをすべきだとしています。「業界は、ポテンシャルのあるクリエイターがもっと儲かる仕組みを作っていかなければならない。Netflixの登場は業界の抱える問題を正常化する大きな一歩になるはずだ」(塩田氏)。

Netflixは、日本のアニメーションが持つ高いポテンシャルを世界に解放していく大きな一歩になることは間違いありません。それだけでなく、日本のアニメーション製作のノウハウと世界中の優れたクリエイティビティが融合することで、これまでにない世界が拓かれるとも、塩田氏は指摘します。「日本のアニメ作品に対する海外の注目は高く、ポリゴン・ピクチュアズに寄せられる海外のファンからのコメントも非常に多い。日本のアニメーションコンテンツには、世界で作れないものがある。Netflixというプラットフォームを活かして業界の“金属疲労”を解消して、加えて世界の様々なクリエイターと組んで日本でも海外でもこれまでなかったような新しいものづくりに挑戦すべきだ」(塩田氏)。

アニメーションに対する世界の概念を変えていきたい

最後に、塩田氏にNetflixを通じてポリゴン・ピクチュアズがどのような挑戦をしていくのか、その抱負を伺いました。塩田氏は、32年前から培ってきたアニメーション制作のノウハウを武器に、Netflixを通じて「誰もやっていないことを 圧倒的なクオリティで 世界に向けて発信していく」というポリゴン・ピクチュアズのミッションを実現していきたいと力を込めて語ります。「私たちは、実写の映画では叶えられない、アニメーションだからこそ伝えることができるストーリーがあると信じている。“アニメ=子どもの観るもの”という概念を世界中で変えていくことができれば。Netflixと組んでオリジナル作品の製作に挑戦することで、これまでにない予算でこれまでにない高いクオリティものづくりに取り組むことができるはずだ」(塩田氏)。これまでのアニメーション製作では、作品の配給、販売、宣伝などの制約により独創的なコンテンツに挑戦するには高いハードルがありましたが、Netflixと組むことでこのハードルが下がり、挑戦的なオリジナル作品にもどんどん挑むことができるようになるのです。

加えて塩田氏は、世界中のクリエイターとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいきたいとしています。「可能性はいくらでもあると感じている。特にアメリカではコンテンツの枯渇状態が生まれており、日本のコンテンツは喉から手が出るほど欲しいはずだ。しかし、今の業界構造では日本のコンテンツホルダーに海外から簡単にアクセスすることができないのが現状。私たちが日本と世界のコンテンツの架け橋になることができれば」と塩田氏は語りました。

このように、Netflixの日本上陸は、ユーザーだけでなくコンテンツ作りの現場にも“業界の変革”と“これまでにない新しいものづくり”に対して大きな期待感を生み出しています。果たして、Netflixを通じて日本から世界へどのようなコンテンツが発信されていくことになるのか。ポリゴン・ピクチュアズをはじめ、日本の多くのクリエイターの挑戦に注目したいところです。

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