9月2日、Netflixがついに日本でサービスを開始しました。優れたテクノロジーによるレコメンド機能やマルチデバイス対応といった使いやすさと、世界各国で製作されたオリジナルコンテンツを強みに、日本国内でもユーザー数の増加と様々なクリエイターを巻き込んだオリジナルコンテンツの製作が期待されています。Netflixはこれから日本のネット業界にどのような影響を生み出し、そしてこれからの映像コンテンツ市場をどのように変革されることが期待されているのでしょうか。昨年までLINEの代表としてサービスをグローバルで拡大させ、現在は女性向け動画コンテンツサービス「C CHANNEL」を展開する森川亮氏に、Netflixへの期待を語っていただきました。

モバイル環境での動画視聴が、これから更に拡大する

――まずは、Netflixの日本上陸に対して長年ネット業界で活躍してきた立場としてどのような印象をお持ちか教えてください。

森川氏:私自身、映像コンテンツ事業というのは日本テレビにいた時代も、ソニーにいた時代も、LINE代表の時代にも携わってきて、そして現在もC CHANNELという事業を展開していて、これまでの長い間で色々な形でチャレンジしてきました。そういった中で今Netflixが日本に参入するということは、Netflixがネット動画配信を巡る日本の状況を踏まえて、“今こそ一番良いタイミングだ”と判断されているからなのだと思います。この参入によってネット動画配信というものに対する世の中の関心がもっと高まり、それによってC CHANNELも一緒に成長できたらと思っています。

――ご自身も女性を対象にした動画コンテンツ「C CHANNEL」を展開されていますが、日本における動画コンテンツ市場の将来性をどのように見ているのでしょうか。また、スマートフォンの普及などを背景に動画コンテンツを楽しむというユーザーの利用シーンは今後どのように変わっていくと考えられるでしょうか?

森川氏:インターネットの世界は、通信回線が高速・大容量化していくにつれてコンテンツがリッチ化していったという歴史があります。テキスト中心だったコンテンツに画像が増えていって、そしてそれが動画や音楽に置き換わって、YouTubeやニコニコ動画といったサービスが人気になっていったのです。今回のNetflixの動きというのは、こういった通信回線の品質向上に加えて、パソコン、スマートフォン、デジタルTVといった端末の多様化と、マルチデバイスでサービスが楽しめるシームレス化といった流れの中でブランド価値を高めてきた結果ではないかと思います。日本を含むアジア各国では、モバイルの通信環境が整いそれがブロードバンド化していますので、デジタルTVだけでなく、モバイル環境における動画視聴がこれからどんどん伸びるのではないかと思います。C CHANNELもそういったユーザー動向に注目しているところです。

これからは、例えば電車の中でスマートフォンを使ってテキストニュースのチェックやゲームを楽しんでいた人も、どんどん動画コンテンツを楽しむようになっていくのではないかと思います。これまでの映像の歴史を振り返ると、テレビの誕生などがそうなのですが、受像機器(配信されるコンテンツを受信・表示する機器)と製作機器で同時にイノベーションが起きると、マーケットが大きく変革しています。最近で言えば、“スマートフォンで撮影して、スマートフォンで観る”という時代がようやく来ているので、回線状況さえ整えばスマートフォンで動画を楽しむという利用シーンは一気に拡大するのではないかと思います。

大手製作会社が中心だった映像コンテンツの世界に起きる変革

――Netflixの登場によって、動画コンテンツをめぐる市場の動きにどのような変化を期待していますか?

森川氏:マーケットに関しては、テレビの地上波放送が強い中でケーブルテレビやBS/CS衛星放送が登場してきて、その中で様々な専門チャンネルが発展してきました。これがひとつのイノベーションだったのですが、衛星放送は運営コストが高いということもあり、気軽にチャンネルを開設してビジネスを展開するということには高いハードルがあったのです。視聴者にとっても同じでケーブルテレビや衛星放送は機器の導入が手間だったりコストが高かったりするというハードルがあるのです。

それに対して、ブロードバンドや高速モバイル通信が当たり前になってきているインターネットの世界で、Netflixの登場によって、ネット動画配信を自然に受け入れられる視聴者と、個性的な映像作品を作って世界に挑戦していきたいというクリエイターとの間でエコシステムが回っていけば、映像業界そのものが活性化し、生み出されるコンテンツが世界に発信されていくような新しい動きが生まれるのではないかと思います。そういった変化がインターネットにおけるモノづくりの在り方に波及していけば面白いですね。

例えばゲームの世界では、ネットゲーム以前のモノづくりは家庭用ゲーム機向けにゲームを作る一部の職人のようなクリエイターが中心の世界だったのが、ソーシャルゲームの拡大によって異業種の人がどんどんゲーム作りに挑戦して新しい世界を創り上げてきました。そういった動き=映像コンテンツの製作に新しいクリエイターたちがどんどん参加して新しい世界を作っていくといった動きが、今後起きてくるのではないかと期待しています。

――コンテンツ製作という点では、C CHANNELもNetflixも、ジャンルや内容は違いますがコンテンツのオリジナリティにこだわっているという共通点があります。「オリジナルコンテンツの持つパワー」とは何だとお感じでしょうか?

森川氏:私自身、日本テレビ時代にはコンテンツのマルチユースや海外展開に携わっていた時期があるのですが、テレビの放送番組は“日本人がテレビの前で視聴するために作られたコンテンツ”であったので、加工したとしてもその本質を変えることはできない。そこに難しさを感じていました。これからの時代は、海外の人も視聴する人をターゲットにしたり、屋外で視聴する人をターゲットにしたり、想定する視聴者に合わせて新しい作り方や見せ方、新しいクリエイターが生まれてくるのではないかと思います。全てのユーザーを意識したコンテンツではなく、“作品をどのような視聴者に届けたいか”、“表現したい材料(物語やネタ)をどのように作品に仕上げていくか”という明確な目的意識を持って多彩なオリジナルコンテンツを生み出していくことができるようになるのです。

日本人のクリエイターが日本人のセンスで世界に向けて映像コンテンツを製作・発信したらどのような反響が生まれるのか、とても楽しみですね。“世界に挑戦しよう”という高い志を持ったクリエイターがどんどん生まれてくるのではないでしょうか。ゲーム業界では、ゲームを作って発信できるのは大手ゲーム会社だけで、それ以外はほとんどが大手の受託開発しかできなかったのですが、ソーシャルゲームの登場によって、これまで受託開発しかしてこなかった会社がリスクをとってどんどんゲームタイトルの開発・発信に進出するようになってきました。恐らく映像業界でも、Netflixの登場によって、これまで受託製作が中心だった製作会社やクリエイターの中から、オリジナル作品で勝負しようという動きが増えてくるのではないかと思います。

●Netflixから若いスタークリエイターが生まれれば、市場はもっと成長する

――Netflixが日本国内でエンターテインメントとして確立するためにはどのような課題があると考えていますか?

森川氏:重要なのは、ユーザーにとって“お金を払うだけの価値があるコンテンツ”が集まるかどうかという点ではないかと思います。例えばハリウッド映画や人気のドラマは、ケーブルテレビでも、衛星放送でも、レンタルDVDでも、いつでも観られる環境が整っている。そういう中にあって、そこにない価値あるコンテンツをどれだけ生み出せるのかという点が、Netflixがチャレンジすべき課題になるのではないかと思います。ネットの世界では“無料”と“有料”に非常に大きな違いがあって、いくら安くても有料となった途端に敷居が高くなってしまう。お金を払っても観たいと思えるオリジナルコンテンツをどれだけ生み出せるか、そしてそれを日本のクリエイターが実現できるかがひとつの大きなチャンレンジになるのではないかと思います。

Netflixは世界各国でこうした課題を飛び越えて巨大なサービスに成長してきました。それが日本でも受け入れられるかどうか、そして日本のクリエイターがNetflixでチャレンジングな作品を作っていけるかどうか、期待したいところですね。アメリカでは映画業界の人たちがショートドラマを製作したりして、そこからヒット作品が生まれていきました。そういった動きが日本でも起きると面白いのではないかと思います。

――最後に、LINE時代から様々な新しいサービスの立ち上げや拡大、海外展開に携わってきた経験を踏まえて、これからNetflixに市場への影響を期待するか、ご意見をお聞かせください。

森川氏:大切なことは、Netflixを通じて日本のクリエイターが“オンラインでコンテンツを観るというのはどういうことか”、“お金を払ってでも観たいと思える価値とは何か”ということを考えてオリジナルコンテンツの製作にチャレンジすることだと思います。新しい産業は、若い人が挑戦したい、活躍したいと思える環境を生み出さなければ発展しません。Netflixから若いスタークリエイターが生まれて、“僕もこんなクリエイターになりたい”という憧れを持つクリエイターがどんどん生まれて市場が活性化していけば、面白い世界が生まれるのではないかと思います。

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