[写真]「大阪大学ショセキカプロジェクト」の主要メンバー。左から編集者の川上展代さん、中村征樹准教授、学生の保道晴奈、山下英里華、山口裕生、大成晴華、平野雄大の皆さん=大阪府吹田市の大阪大学出版会で

 出版業界から本が売れないとの嘆き節が聞こえてくる中、半年あまりで16000部まで発行部数を伸ばした隠れたベストセラーが、大阪で誕生した。しかも、発行元はお堅い専門書のイメージがつきまとう大学出版会というから驚く。ヒットの背景には、新しい本作りへの挑戦があった。

関西9大学の学生らが共同で新聞発行、報道サークル「UNN関西学生報道連盟」

発売半年あまりで増刷に次ぐ増刷

[写真]「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」。表紙のギザギザ模様の白いカバーは、ドーナツを包む紙ナプキンに見立てている

 この隠れたベストセラーは、大阪大学出版会(大阪府吹田市)発行の「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」。奇抜なタイトルだが、サブタイトルも「越境する学問――穴からのぞく大学講義」となかなか刺激的だ。

 発行は今年2月。初版は3000部だったが、発売前から予約が殺到。現時点で5刷まで増刷され、発行部数は16000部まで伸ばしている。大学出版会の刊行本としては、異例の売れ行きを示す。

 編者は「大阪大学ショセキカプロジェクト」。大阪大学の教員、学生と、同出版会編集者の三者で構成された阪大連合グループだ。

 大阪大学の魅力的な授業を教科書として出版することを目的に、2012年4月プロジェクトが始動。その後、必ずしも現行の授業の枠にとらわれることはないと軌道修正したうえで、学生主体で出版企画案の立案に取り組んだ。学生から提案された4つの企画案のひとつが『ドーナツ本』だった。

 学生代表で工学部4年の平野雄大さんは「『ドーナツを穴だけ残して食べる方法があるか』という問いかけは元々、2チャンネルでプチブームになっているネタでした」と振り返る。「ネット社会でおふざけ気味に話題になっているテーマを、大阪大学の教員の皆さんに、思い切ってぶつけてみたら、面白い答えが返ってくるのではないかという発想」(平野さん)が端緒になった。

 同年12月、『ドーナツ本』企画案は、出版委員会でいったん『ボツ』の憂き目に。しかし、ひるむことなく内容を練り直して、13年3月、出版決定にこぎつけた。

教員著者にも原稿の修正を要請

 全学部を網羅する多様な研究分野の教員13名が、執筆陣に名前を並べることとなった。10名の学生メンバーが手分けをして、執筆を依頼して回った。依頼時には教員の風格に気合負けしそうな『新米編集者』だったが、原稿の内容精査に関しては、『鬼編集者』に徹したという。

 だれにも読みやすい文章にするため、メンバー全員で記事校正に打ち込んだ。ひとつの原稿を最低3人がかりで担当し、文系、理系の学生がどちらも理解できるように検討を加えていく。著者によっては、複数回におよぶ修正や大幅修正を要請することもあった。

 ときに原稿を前にして、著者と編集者との間で壮絶なバトルがぼっ発しかねない情勢だが、教員たちはことのほか率直に原稿修正に応じてくれた。平野さんは「むしろありがとうと感謝されることもありました。学生たちが理解しにくい箇所を指摘することになったため、これからの講義に生かせるとのことでした」と話す。

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