[写真]作品を前にアマゾンへの思いを語る山口大志さん=大阪市中央区の富士フイルムフォトサロン 大阪で

 南米アマゾン川流域に通い詰め、撮影に打ち込む日本人写真家がいる。山口大志さんだ。色鮮やかな鳥や昆虫たちの造形美、多様な生き物たちが織りなす生態系の不思議。大阪で開かれている作品展で、アマゾンへの思いを聞いた。

【写真特集】山口大志写真展「AMAZON 密林の時間」

メラメラメラと飛ぶチョウの妖艶さに魅了され

 山口大志写真展「AMAZON 密林の時間」。会場にはアマゾンの生き物たちが放つ鮮やかな色彩があふれる。羽をすばやく動かし、空中でホバリングして花の蜜を吸うオレンジ色のハチドリ。青い羽が際立つのは、日本のアゲハチョウよりふた回りほど大きいアキレスモルフォ。山口さんが撮影時の様子を振り返る。

 「羽を休めていたアキレスモルフォが、私に驚いてメラメラメラと飛んでいく。羽ばたくたびに青いせん光が輝き、誘われるようにして追いかけるうちに道から外れてジャングルに迷い込んでしまう。妖艶さに魅了され、チョウというより別な生き物に思える。アマゾンでは他の地域と比べて、生き物たちが圧倒的な造形美を持っています」

 撮影時、生き物たちの造形美を最大限に引き出すため、光の向きや質には妥協しない。一方で、華やかさには欠けるものの、忘れられない重要な作品もある。

 多くの生き物たちがミネラル補給のため土を食べにやってくる塩場。体重100キロを超えるバクをよく見ると、目の周りに小さな蛾が集まっている。蛾は何をしているのだろうか。観察を続けたところ、意外な事実が判明した。

 「蛾はバクの涙のわずかな水分から、ミネラル分をチュウチュウ吸い取っているのではないか。ジャングルの土からミネラルを補給するバク。そのバクの涙からミネラルを受け取る小さな蛾たち。以前からアマゾンで感じていたエネルギーの循環を、1枚の写真で表現できた作品ではないかと自負しています」

 命が輝く造形美と、エネルギーの循環がもたらす大きな生態系。アマゾンと向き合う山口さんのテーマだ。

1日12時間撮影の執念が傑作を生みだす

 山口さんは2010年から、毎年アマゾンへ。滞在中はストイックな暮らしぶりを貫く。夜明け前に起き出し、大半の時間を、ひたすら撮影や撮影準備に費やす。

 1か月に数回しか現れない生き物たちを、1日12時間粘り強く待つ。仮設の隠れ小屋にこもって撮影を継続する間、蚊の攻撃に耐え抜く。蚊取り線香や防虫スプレーは、わずかなにおいでも生き物に気付かれるので使用できない。自衛策は飛び回る蚊を手で捕まえたり、追い払うだけ。それでも苦にはならない。「アマゾンでは、小さな蚊ですら、エメラルドグリーンに輝いています」と笑みが浮かぶ。

 撮影を手伝うアマゾンの住民のひとりは、警戒心が強いため容易には姿を見せないサルの仲間シロウアカリの鳴き声を聞き取れる。小鳥のさえずりのようなかすかな鳴き声だけを頼りに、ジャングルの奥深く分け入り、山口さんをシロウアカリの居場所へ導く。山口さんは持てる技量を総動員して、シャッターチャンスを狙った。会場に展示された貴重なシロウアカリの生態写真は、努力の結晶の一部だ。

 アマチュアカメラマンへの助言を聞いた。「被写体をよく観察することを勧めたい。周囲を見渡し、ディテールにも目を凝らす。全体と細部を観察するふたつの視点を併せ持つことで、新たな発見につながるのではないでしょうか」

 全体と細部、広大な世界と多様な生き物たちを包み込みながら、アマゾンの時間がゆったりと流れていく。作品展は富士フイルムフォトサロン 大阪(メットライフ本町スクエア1階)で25日まで。約50点を展示、入場無料。
(文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)