[写真]見事な三層の破風造りの稲荷湯。昭和5年に建てられた

 入浴料460円で味わえる日本人のプチ贅沢。その魅力を次の世代につなげようと、がんばっている銭湯がある。今回ご紹介する銭湯は、北区滝野川にある「稲荷湯」。今の場所で営業を始めてからも、すでに80年以上という歴史ある銭湯だ。最近、廃業や改築をする銭湯も増えているなか、「稲荷湯」は、丁寧に手入れをしながら、昭和の銭湯の良さを守り続ける。現在は、4代目の土本泰弘さん、紀子さんご夫妻と、長女で5代目の公子さんを中心に、家族が一丸となって、「稲荷湯」を支えている。

番台に座る5代目の土本公子さん。女湯側の目隠しが男湯側より高くなっているのがわかるだろうか

 都営三田線西巣鴨、JR埼京線新板橋、都電庚申塚電停のどの駅からも徒歩圏内。細い路地に面して「稲荷湯」はある。まるでこの一角だけ、昭和の初めにタイムスリップしたような雰囲気。それもそのはず、「稲荷湯」の建物は昭和5年に建てられた破風(はふ)造り。よく見ると屋根が三層になっている。古く江戸の時代には神社仏閣、城郭に用いられたという破風造りは、大正末期から昭和40年頃まで、数多くの東京の銭湯で見られた。しかし最近は、維持することが難しく、改築してしまう銭湯も多いという。

 さて、のれんをくぐると右に男湯、左に女湯。昔ながらの番台に座るのは、5代目の公子さん。フロント形式の銭湯が増える中、稲荷湯は昔ながらの番台を守っている。「番台を嫌がる若いお客様もいらっしゃいますから、昨年暮れに配管とボイラーの工事をした時に、フロント形式にしようかという話も出ました。でも、家族で話し合って、やっぱりこの番台は残そうと決めました」。

 番台に座って常連客と会話するおじいさんやお母さんの姿を見て育った公子さん。番台に座るようになったのはごく自然のことと笑う。

[写真]特別に座らせていただいた番台から見た脱衣場。年季の入った引き出しが「稲荷湯」の歴史を語る

 「稲荷湯」の脱衣場に足を踏み入れると、そこはまさに昭和の銭湯。磨きあげられた床、籐のかご、もみ玉のついたマッサージ機、扇風機……。懐かしさがこみ上げてくる。隅々まで手入れの行き届いた脱衣場は、「稲荷湯」に足を運ぶ客に快適に過ごして欲しいという土本さん一家の心遣いだ。

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