[写真]東京を訪れる外国人観光客が増える中、台東区ではさまざまな観光戦略を実行している(ロイター/アフロ)

 昨年、日本を訪れた外国人観光客は2000万人に迫る勢いで、すでに過去最高を記録しています。銀座や上野、浅草、新宿、渋谷といった繁華街で外国人観光客を目にしない日はありません。政府も外国人観光客が食事や買い物をするインバウンドの拡大に意欲を示していますが、その一方で、文化や習慣が違う外国人観光客と店舗の間でハレーションが起きることも少なくありません。そうした中、東京・台東区はソフトとハードの両面で外国人観光客に対応できる環境を整えてきました。

【写真】東京五輪へ向け拡大するインバウンド市場 海外の日本投資も加速

多言語でパンフやチラシを作成

 台東区は上野公園・動物園やアメ横のある上野、雷門や仲見世のある浅草といった屈指の観光地を抱える自治体です。台東区には昔ながらの街並みなども残っているので、観光客のみならず東京都民からも“下町”散策などで人気を博すエリアになっています。

 近年、特に同区を観光で訪れているのが外国人です。台東区は訪日外国人を誘致しようと外国人観光客の利便性を高める政策に着手しています。

 その一つが、観光情報の多言語化です。昨今、観光客を呼び込もうと、多くの自治体が英語・中国語(繁体字と簡体字)・韓国語でパンフレットやチラシ類を制作、配布しています。

 台東区はそれらの言語に加えてに、フランス語・スペイン語・イタリア語・タイ語・インドネシア語・マレー語もそろえています。ここまで多くの言語のバリエーションがある自治体は、あまり見かけません。

「台東区が外国語のパンフレット制作に取り組むようになったのは、2002年の日韓ワールドカップからです。ワールドカップ開催中、上野や浅草には外国人観光客があふれました。多くはアメリカや中国、韓国から来た観光客ですが、中には聞いたことがないような国からの観光客もいました。たくさんの外国人観光客が台東区に観光に来たことをきっかけに、外国人にきちんと観光情報を提供する必要性を感じ、外国語の観光パンフレットなどを制作したのです」(台東区観光課)

 台東区は、今年中にポルトガル語とドイツ語の観光パンフレットを制作する予定です。ポルトガル語の観光パンフレットを制作する理由は「今年はリオデジャネイロ五輪の開催年にあたり、その次が東京なので、五輪を機に台東区をアピールするため」(同)としています。

飲食店のハラル認証の取得を後押し

 多言語のパンフレットやチラシを制作することで、外国人観光客に情報を提供することは重要な観光政策です。しかし、外国人が観光で不便を感じるのは「言葉」ばかりではありません。異なった文化や習慣を持つ外国人は、日本のマナーや作法がわからずに店との間でハレーションを起こしてしまうことがあります。

 外国人観光客とのトラブルを少しでも解消するため、台東区は外国人観光客に対する道案内や接客の仕方などを学ぶ研修会“おもてなし講座”を実施しています。各国の文化や習慣への理解を深めれば、文化の違いによるトラブルは少なくなるからです。

 ほかの自治体に先んじて外国人観光客の受け入れを進めている台東区ですが、課題もあります。それが、ムスリム(イスラム教徒)への対応です。最近は中東からの観光客が急増しています。しかし、台東区では、まだアラビア語のパンフレットを制作できていません。

「ムスリムと聞くと、どうしても中東のイメージを強く抱きます。もちろん、中東諸国から来日する観光客への利便性を高めるために、アラビア語の観光パンフレットなども制作しなければと思います。その一方で、インドネシアやマレーシアからの観光客にもムスリムの方がたくさんいます。台東区はムスリムの観光客にも楽しんでもらおうという考えから、区内の飲食店にハラル認証を取得する費用の一部を助成する事業を(昨年)10月から始めました」(同)

 イスラム教は戒律が厳しく、イスラム法で禁止された食べ物は口にすることができません。「ハラル」とはイスラム社会で“許されたもの”を意味し、イスラム法にのっとって製造・加工・料理されたハラル認証取得食品であれば、ムスリムの人たちは安心して口にできます。

 日本では、まだムスリムに対する理解が浅く、ハラルへの十分な対応ができていないのが現状です。台東区内でハラル認証を取得した飲食店が増えれば、訪日するムスリムの観光客は台東区の飲食店を利用するようになります。そうした背景から、最近はハラル認証を取得する飲食店が増え、行政がハラル認証取得の後押しもしているのです。

【写真】東京五輪へ向け拡大するインバウンド市場 海外の日本投資も加速

ドルやユーロで買い物できるサービスも

 増える外国人観光客への対応を充実させようとしているのは、台東区という行政だけではありません。浅草の商店街は昨年6月から証券会社のマネーパートナーズと協力して、ドルやユーロでも買い物ができるサービスを開始しました。

「浅草界隈の個人経営の店ではクレジットカードを扱っている店が少なく、またクレジットカードは導入するための設備投資も必要です。そのため、二の足を踏む経営者も多かったのですが、外貨をそのまま使える同システムは初期導入コストが安く抑えられるので、現在は70店前後が導入しています」(マネーパートナーズ広報)

 増える外国人観光客に対して、台東区では「言語」「食」「お金」といったさまざまな面での環境整備が進められています。

(小川裕夫=フリーランスライター)

【写真】東京五輪へ向け拡大するインバウンド市場 海外の日本投資も加速

この記事が気に入ったら「いいね!」をお願いします