昨今、自動車産業に新たな技術革新の波が押し寄せています。特に、高齢化・人口減少時代を迎えて注目されているのが自動運転技術です。

 高齢者になると、どうしても判断能力や反射神経が衰えてしまうため、不慮の交通事故を起こしやすくなります。そのため、免許を自主返納する高齢者もいます。そうした動きが広まる一方、通勤や買い物、病院への通院、休日の外出などのために免許を手放せない人たちもいます。

交通弱者対策コミュニティバス ── 財源にくわえ、運転手不足問題も浮上

[資料写真]荻窪駅。自動運転車の実証実験は荻窪駅周辺の区道で実施される予定(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 行政は自動車を運転できない高齢者や障害者、小さな子供を連れた若いママといった交通弱者対策として、コミュニティバスなどを運行して、買い物や通学・通勤を手助けしています。

 コミュニティバスの需要は過疎地になればなるほど高まりますが、採算性に乏しく、そうした要因から過疎地のコミュニティバス路線は税金の無駄と非難の対象になることも少なくありません。

 行財政の問題にくわえて、バスの運転手が不足している問題も新たに浮上してきています。いくらコミュニティバスを運行する財源があっても、運転手がいなければ、コミュニティバスは運行できないのです。

 そうした背景から自動運転技術に注目が集まっています。自動運転車は実用段階に入っていますが、人間が運転する自動車と比べると、コンピューターに運転のすべてを委ねるほど万全な技術にはなっていません。

 とはいえ、メーカーの研究開発競争が熾烈を極め、自動運転技術が飛躍的に向上していることも事実です。技術を検証することも兼ねて、道の駅やショッピングモールといった私有地やエリア限定の実証実験がおこなわれることも珍しくありません。

 そして、ついに自動運転車の実証実験は公道に移っています。

 このほど杉並区は、12月に公道上で自動運転車を走行実験することを発表しました。公道を使った実験は、東京都では初の試みとなります。

杉並区は高度な3D地図作成済み。自動運転車実証実験で活用

3Dデータを基にして作成された高円寺駅前のイメージ画像(画像提供:杉並区)

 東京23区内は鉄道網が充実しており、路線バスの本数も多くマイカーなしでも移動に不便を感じることはありません。自動車メーカーや研究者たちが技術開発にしのぎを削るのは理解できるとして、杉並区が自動運転の実証実験に積極的に協力する理由は、何でしょうか? 杉並区都市整備部交通対策課の担当者は、こう話します。

「杉並区では地籍調査に使用する目的で、2011(平成23)年にMMS(モービルマッピングシステム)という3D地図を作成しました。この3D地図は点群と呼ばれるポイントで表現されており、ひとつひとつの点には緯度・経度・標高などの位置情報が集積しています。杉並区では、そんな高度な3D地図を何かしら活用できないかと考えていました。そんな折、自動運転の技術を開発しているメーカーや東京大学の研究者たちとで話がまとまり、公道での実証実験に協力することになったのです」

 今回の自動運転実験では、レベル3の無人運転車を使用します。レベル3は条件付き自動運転と呼ばれる段階で、アクセス・ブレーキ・ハンドル操作をコンピューターが自動でおこないます。しかし、緊急時には人間が操作する必要があり、運転席を完全に無人化できている自動車ではありません。

 レベル3の自動運転車は公道での実験に警察の許可を得る必要はなく、気軽に実験がおこなえるというメリットがあります。

 そして、自動運転の実証実験の場には、荻窪駅周辺の区道が選ばれました。杉並区が協力することから、実験場所が国道や都道ではないことはわかりますが、なぜ荻窪駅周辺が選ばれたのでしょうか?

「荻窪駅はJR中央線の快速電車が停車し利用者が多い主要駅です。また、東京メトロ丸ノ内線の駅もあり、杉並区内では屈指の交通の結節点ともいえる駅です。そうした交通の結節点であることにくわえ、杉並区が観光名所としてPRに力を入れている音楽評論家の大田黒元雄の自邸を整備した大田黒公園や元総理大臣の近衛文麿の別荘地を公園化した荻外荘公園などが点在していることも理由のひとつになっています」(同)