東京23区、武蔵野市、三鷹市のタクシー運賃が初乗り2.0km730円から同1.052km410円に変更されてから1年以上が経過しました。運賃変更前よりも、輸送回数と運送収入が増加し、東京ハイヤー・タクシー協会は「運賃変更は成功した」と胸を張ります。一方、短距離利用が多い地域で営業するタクシー乗務員からは、「収入が下がった」と不満の声もでており、運賃変更の恩恵を受けたドライバーには地域差があるようです。

ちょい乗り増えた? タクシー初乗り運賃変更1年、輸送回数が前年上回る

初乗り料金が410円であることを示すタクシーの窓

 同協会のまとめによると、2017年の輸送回数は前年比で4.7%増加。太田祥平同協会広報委員長(三和交通社長)は、「運賃変更が『ちょい乗り』需要を喚起した」と話します。実際に対象エリアで営業している乗務員に取材したところ、ほぼ全員が「輸送回数が増えた」と答えていました。

 江戸川区のJR小岩駅南口タクシー乗り場では、40代女性が「初乗り410円になって利用回数は増えた。近くの自宅まで帰るのによく使う」と話していました。JR東京駅八重洲口前のタクシー乗り場では千葉県東金市の40代女性が「東京にはたまにくるが、410円は乗りやすい金額」と話していました。

 確かに『ちょい乗り』が増えていると言っていいようです。しかし、運賃変更の影響は、個々の乗務員や会社によって違いがあると指摘するのは、タクシー業界誌「TAXI JAPAN」の熊澤義一編集長(50)です。

 熊澤編集長は、「運賃を変える前とあまり変わらない、と言うタクシー会社も少なくありません。江戸川区のように地元住民の利用が多い下町の駅で営業する乗務員が多いタクシー会社では、前より減収になったところもあるようです」と話します。

 今回の運賃変更では、2キロまでの移動は従来よりも値下げに、2キロから6.5キロまではほぼ同額、6.5キロ以上で値上げになりました。

 運賃変更の前なら、乗客がたとえ0.5キロで降りても運賃は730円でしたが、今は320円少ない410円になります。2キロまでの短距離利用が多い地域では、この運賃変更により収入が減った分を輸送回数の増加で補わない限り、売り上げは下がってしまいます。

 タクシー大手の大和自動車交通(東京都江東区)は、運賃変更後1年間(2017年1月30日〜2018年1月29日)の運送収入が前年比1.8%増になりました。収入全体の半分以上を占める6.5キロ超の輸送に限れば、輸送回数は同4.5%減ですが、運送収入は同20.9%増と業績を牽引しました。

 しかし、現場の乗務員には、必ずしも実感が伴っていないようです。

 「730円の方が良かった。戻してほしいよ」。こう嘆くのは、江戸川区にあるJR小岩駅の南口タクシー乗り場で客待ちをしていた男性乗務員(72)です。同区を中心に営業していると言い、「410円を3回やっても、730円の2回分に届かないんだから」とやりきれない思いを吐露していました。

 ほかの乗務員からも「回数をやっても売り上げが伸びない」「1日の収入が2000円減った。やる気がでない」と不満の声を聞きました。加えて「前に比べて収入にさほど変わりはない」「回数は増えたがプラマイゼロ」という声も。

 取材を続けていると、十数分前に「730円の方が良かった」と答えた乗務員のタクシーがもう戻ってきました。視線が合うと、乗務員は苦笑い。乗客から受け取った運賃の金額を聞くと、410円でした。

 千代田区や港区、中央区といった都心部に取材に向かうと、状況は一変します。長距離の乗客が多い傾向にあり、東京・丸の内のビル街で予約客を待っていた男性乗務員(73)は、「収入が増えた。運賃変更のメリットは大きい」と上機嫌でした。

 一方で、新宿区を中心に営業するという乗務員(52)のように「会社全体では運送収入が前年比1%増となりましたが、個人的には実感はないですね」と大きな運送収入にはつながっていないという声もあります。

(取材・文:具志堅浩二)